建設業で電子契約の導入を検討しているものの、「立会人型」と「当事者型」の違いがよく分からない。そんな声をよく耳にします。
特に中小規模の建設会社では、下請業者との契約が多く、相手方の負担も考慮する必要があります。コストを抑えたい一方で、建設業法の要件も満たさなければなりません。
この記事では、建設業における電子署名の2つの方式を比較しながら、自社に合った選び方を解説します。工事請負契約や下請契約の電子化を考えている方は、ぜひ判断材料としてお役立てください。
そもそも電子署名の「立会人型」「当事者型」って何が違う?
電子契約で使われる電子署名には、大きく分けて2つの方式があります。どちらも法的に有効ですが、仕組みや導入の手間が異なります。
当事者型は、契約する本人が電子証明書を取得し、その証明書を使って署名する方式です。認証局と呼ばれる第三者機関が本人確認を行い、電子証明書を発行します。マイナンバーカードに搭載されている署名用電子証明書も、この当事者型にあたります。
一方、立会人型は、電子契約サービスの事業者が「立会人」として署名を付与する方式です。契約する当事者はメール認証やSMS認証で本人確認を行い、サービス上で合意操作をします。サービス事業者がその操作記録とともに電子署名を付与し、契約の成立を証明します。
この違いを踏まえた上で、建設業特有の事情をふまえて比較してみましょう。
建設業法が求める電子契約の要件を確認する
建設業で電子契約を使う場合、一般的な契約とは異なる注意点があります。建設業法第19条第3項では、書面による契約に代えて電磁的措置を講じることが認められていますが、一定の技術的基準を満たす必要があります。
建設業法施行規則第13条の4で定められている基準は3つです。
1つ目は「見読性」です。電子データの内容を、必要に応じて明瞭に読み取れることが求められます。PDFなどの一般的な形式で契約書を表示できれば、この要件は満たせます。
2つ目は「原本性」です。電子データが改ざんされていないことを確認できる仕組みが必要です。電子署名やタイムスタンプの付与がこれにあたります。
3つ目は「本人性」です。契約の当事者が誰であるかを確認できることが求められます。
この3つの基準は、立会人型・当事者型のどちらでも満たすことが可能です。2020年の建設業法改正以降、国土交通省も立会人型電子署名の活用を否定していません。ただし、署名方式ごとに本人確認の強度が異なる点は理解しておく必要があります。
なお、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)第3条では、本人による電子署名が付された電磁的記録は、真正に成立したものと推定すると規定しています。当事者型はこの推定効がそのまま適用されます。立会人型については、2020年の政府見解(2条・3条に関するQ&A)により、一定の条件を満たせば同様に推定効が認められる方向性が示されました。
7つの観点で立会人型と当事者型を比較する
建設業の中小企業が電子契約を選ぶ際に重要な7つの観点で、2つの方式を比較します。
観点1:導入コスト
当事者型では、署名者ごとに電子証明書の取得が必要です。認証局によって異なりますが、1枚あたり年間数千円から数万円の費用がかかります。自社だけでなく、契約相手にも証明書の取得を求めることになるため、下請業者との取引が多い建設業ではコスト負担が膨らみます。
立会人型は、電子証明書の取得が不要です。月額料金と送信件数に応じた従量課金が一般的で、導入時の初期費用も抑えられます。Simple Contractの場合、月額1,980円から利用でき、相手方のアカウント登録も不要です。
観点2:相手方の負担
建設業では、1つの工事に複数の下請業者が関わります。規模の大きい工事では、数十社と同時に契約するケースもあります。
当事者型の場合、すべての下請業者に電子証明書の取得を依頼しなければなりません。ITに不慣れな職人や、個人事業主の一人親方にとって、電子証明書の申請は大きなハードルです。
立会人型であれば、相手方はメールでURLを受け取り、内容を確認して同意ボタンを押すだけで署名が完了します。アカウント登録も不要なサービスが多く、スマートフォンさえあれば現場からでも対応できます。
観点3:本人確認の強度
当事者型は、認証局が本人確認を行った上で電子証明書を発行するため、署名者の本人性が高い水準で担保されます。
立会人型は、メールアドレスやSMS認証による本人確認が基本です。アクセスログ(IPアドレス、タイムスタンプ、ブラウザ情報)を記録することで、証拠力を補強する仕組みです。
建設業の工事請負契約では、数百万円から数億円規模の契約も珍しくありません。契約金額が大きい場合は、本人確認の強度も検討材料になります。
観点4:契約締結のスピード
紙の契約では、契約書の作成から相手方の押印・返送まで10日から15日かかることがあります。電子契約を導入すれば、この期間を大幅に短縮できます。
当事者型は、電子証明書をすでに持っていれば即日署名が可能です。しかし、証明書を持っていない場合は取得に数日から数週間かかります。
立会人型は、メールを受信できればすぐに署名できるため、最短で当日中の契約締結が可能です。追加工事の契約など、急ぎの対応が必要な建設現場では、このスピード感が役立ちます。
観点5:印紙税の削減効果
印紙税法上、「課税文書」は紙の文書を指すと解釈されています。国税庁の見解でも、電子データでやり取りされる契約には印紙税が課税されないとされています。これは立会人型・当事者型のどちらでも同じです。
建設工事請負契約は契約金額が大きいため、印紙税の削減効果が顕著です。例えば、契約金額が1,000万円超5,000万円以下の場合、1通あたり1万円の印紙税がかかります。年間50件の契約があれば、それだけで50万円の削減になります。
5,000万円超1億円以下なら1通あたり3万円、1億円超5億円以下なら6万円です。中規模の建設会社でも、年間で数十万円から100万円以上の印紙税を削減できる可能性があります。
観点6:法的な証拠力
万が一の紛争時に、電子契約が証拠として認められるかは重要な論点です。
当事者型は、電子署名法第3条の推定効が直接適用されるため、法的な証拠力が高いとされています。裁判でも、本人の意思で署名されたことが推定されます。
立会人型は、サービス事業者が署名を付与する形式のため、推定効の適用について議論がありました。しかし、2020年に総務省・法務省・経済産業省が連名で発表した「電子署名法2条1項に関するQ&A」と「同3条に関するQ&A」により、立会人型でも一定の要件を満たせば推定効が認められるとの方向性が示されています。
実務上、建設業の下請契約で裁判に至るケースは限られます。むしろ、工期の変更や追加工事の合意を確実に記録し、「言った言わない」のトラブルを防ぐことが重要です。この点では、操作ログやアクセス記録を残す立会人型も十分な証拠力を持ちます。
観点7:建設業での普及状況
中小企業庁の調査によると、中小企業における電子契約の導入は年々増加しています。特に建設業では、2024年問題(時間外労働の上限規制の適用)への対応もあり、業務効率化の一環として電子契約の導入が加速しています。
立会人型は導入ハードルの低さから、特に中小規模の建設会社で採用が進んでいます。相手方にアカウント登録や電子証明書の取得を求めないため、下請業者との取引がスムーズに電子化できるためです。
建設業ならではの判断ポイントは?
一般的な比較だけでは見えてこない、建設業特有の事情を踏まえた判断ポイントを整理します。
下請構造と「相手方の承諾」問題
建設業法では、電子契約を行うにあたり相手方の承諾が必要と定められています。立会人型であれば、メールで契約書を送信し、相手がリンクを開いて同意するだけなので、承諾取得のハードルが低くなります。
一方、当事者型で相手に電子証明書の取得を求めると、それ自体が新たな交渉事項になりかねません。特に個人事業主や小規模の下請業者にとっては、費用と手間の両面で負担が生じます。
現場での対応力
建設現場では、追加工事や仕様変更が頻繁に発生します。「明日から追加工事に着手したいが、契約書がまだ」という状況は珍しくありません。
こうした場面では、スマートフォンから数分で署名できる立会人型の機動力が生きます。現場監督がその場で変更契約を送信し、下請業者がスマートフォンで確認・署名するフローが実現できます。
工事規模による使い分け
すべての契約を同じ方式にする必要はありません。工事の規模やリスクに応じて使い分ける方法もあります。
例えば、数億円規模の大型工事や、特に重要な元請・下請間の基本契約には当事者型を採用し、日常的な注文書・請書のやり取りや、小規模工事の契約には立会人型を活用するという運用です。
ただし、2つの方式を併用すると運用が複雑になるデメリットもあります。中小建設会社の場合、まずは立会人型で電子契約を始め、必要に応じて当事者型を追加するのが現実的です。
注文書・請書方式への対応
建設業では、基本契約を締結した上で個別工事ごとに注文書・請書を交わす方式が広く使われています。この方式の電子化では、繰り返し発生する注文書・請書を効率よく処理できるかが重要です。
立会人型の電子契約サービスでは、テンプレート機能を使って注文書・請書を素早く作成・送信できるものが多くあります。当事者型でも同様の機能はありますが、相手方の電子証明書管理という追加の手間が発生します。
「結局どっちを選べばいい?」ケース別の判断基準
自社の状況に合わせた判断基準を、ケース別に整理しました。
ケース1:下請業者が10社以上ある中小建設会社
立会人型がおすすめです。多数の下請業者に電子証明書の取得を依頼するのは現実的ではありません。メールだけで契約が完結する立会人型であれば、IT環境の異なる下請業者ともスムーズに電子契約を始められます。
ケース2:公共工事を中心に受注している会社
発注者の指定に従う必要があります。公共工事では、発注者が電子署名の方式を指定しているケースがあります。まずは発注者に確認し、指定がなければ立会人型から始めるのが効率的です。
ケース3:年間の契約金額が大きく、紛争リスクを重視する会社
当事者型の方が安心感があります。ただし、立会人型でも操作ログや認証記録により十分な証拠力を確保できます。契約金額の大きさだけで判断するのではなく、相手方との関係性や契約の性質も考慮してください。
ケース4:まず試してみたい会社
立会人型から始めることをおすすめします。初期費用が少なく、相手方の準備も不要なため、すぐに試すことができます。まずは社内の少人数で使い方を確認し、その後、協力的な下請業者との契約から実運用を始めるとよいでしょう。
ケース5:一人親方や個人事業主との取引が多い会社
立会人型が適しています。一人親方は事務作業に割ける時間が限られます。電子証明書の取得や更新の手間をかけずに契約できる立会人型は、相手方との関係を損なわずに電子化を進められます。
建設業で電子契約を導入するときの注意点
署名方式を決めた後の導入段階で、つまずきやすいポイントを確認しておきましょう。
相手方の承諾を書面で残す
建設業法では、電子契約を行うにあたり相手方の承諾が必要です。口頭での承諾ではなく、メールや書面で記録を残しておくことが望ましいです。立会人型の電子契約サービスでは、相手方がリンクを開いて署名すること自体が承諾の意思表示として記録されるため、実務的な負担は軽くなります。
紙との併用期間を設ける
すべての契約を一度に電子化するのはリスクがあります。IT環境が整っていない下請業者や、電子契約に抵抗感のある取引先もあるためです。まずは一部の取引先から電子契約を開始し、紙との併用期間を設けて段階的に移行するのが賢明です。
保存期間への対応
建設業の契約書は、長期間の保存が求められます。法人税法上の帳簿書類は7年、住宅の瑕疵担保責任(契約不適合責任)を考慮すると引渡しから10年の保存が必要です。重要な契約では20年以上の保存を推奨する専門家もいます。
電子契約サービスを選ぶ際は、長期保存に対応しているか、サービス終了時のデータ移行は可能かを確認しておきましょう。
建設業法第19条の記載事項を網羅する
建設業法では、請負契約書に記載すべき15の事項が定められています。工事内容、請負代金の額、工事着手・完成の時期、支払いの定めなどです。電子契約であっても、これらの記載事項をすべて含める必要があります。
契約書のテンプレートを作成する際は、建設業法第19条第1項の各号に対応しているか、行政書士や弁護士に確認してもらうと安心です。
グリーンファイル(安全書類)との連携
工事請負契約の電子化とあわせて、安全書類(グリーンファイル)の電子化も検討する価値があります。再下請負通知書、作業員名簿、持込機械等使用届など、建設現場で必要な書類は多岐にわたります。契約書と安全書類を一元管理できると、現場の事務作業が大きく軽減されます。
業種別の電子契約活用事例と組み合わせて考える
電子契約の導入は、建設業に限った話ではありません。さまざまな業種で電子契約の活用が進んでおり、業種ごとに異なる課題や工夫があります。
例えば、不動産業では賃貸借契約や売買契約の電子化が進んでいます。建設業と不動産業は関連が深く、工事請負と不動産取引の両方で電子契約を活用する会社も増えています。他業種の活用事例も参考にしたい方は、業種別 電子契約活用ガイドもあわせてご覧ください。
建設業特有のポイントは、元請・下請の重層構造があることです。1つの工事に関わる関係者が多く、契約の相手方全員が同じIT環境とは限りません。この点で、相手方に特別な準備を求めない立会人型電子署名は、建設業の商習慣と相性が良いといえます。
また、電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)への対応も見据えておく必要があります。電子取引データの保存義務化が進む中、電子契約で締結した契約書を適切に保存・管理する体制を整えることは、コンプライアンスの観点からも重要です。
まとめ:中小建設会社にとって現実的な選択は
立会人型と当事者型、どちらが「正解」かは会社の状況によって異なります。しかし、中小規模の建設会社にとっては、立会人型から始めるのが現実的な選択肢だといえます。
その理由は3つあります。
1つ目は、導入コストの低さです。電子証明書の取得費用がかからず、月額の利用料だけで始められます。
2つ目は、下請業者の負担が少ないことです。メールとスマートフォンがあれば契約に参加でき、アカウント登録や電子証明書の取得は不要です。
3つ目は、現場での機動力です。追加工事や仕様変更に即座に対応でき、着工前の契約締結を確実に行えます。
もちろん、すべてのケースで立会人型が最適とは限りません。大規模な公共工事や、特に高い証拠力が求められる場面では、当事者型を検討する価値があります。
大切なのは、まず電子契約を始めてみることです。紙の契約書に年間数十万円の印紙税を払い続け、郵送で何日も待ち、現場と事務所を往復する——そうした従来のやり方を見直すきっかけとして、電子契約の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

