税理士事務所との契約書、紙のままで大丈夫?
税理士事務所と顧問契約を結んでいる中小企業は多いでしょう。毎年の契約更新や新規の業務委託契約のたびに、紙の契約書を作成し、押印して郵送する。この流れに疑問を感じたことはありませんか。
近年、電子帳簿保存法の改正やインボイス制度の導入をきっかけに、税理士事務所でも電子化の波が押し寄せています。国税庁が公表した方針によると、税務関連書類の電子保存が原則化される流れの中で、契約書も例外ではありません。
しかし、「税理士事務所との契約書を電子化しても法的に問題ないのか」「どんなサービスを選べばよいのか」という疑問を持つ経営者も少なくないはずです。
この記事では、税理士事務所との契約書を電子化する際に知っておくべきポイントを、メリット・デメリットの両面から比較しながら解説します。自社に合った判断ができるよう、具体的な選定基準もお伝えします。
税理士事務所で交わされる契約書の種類と電子化の可否
まず、税理士事務所とやり取りする契約書にはどのような種類があるのかを整理しましょう。
- 税務顧問契約書:月額顧問料を定め、日常的な税務相談や記帳指導を委託する契約
- 決算・申告業務委託契約書:年次決算や確定申告の作成を依頼する契約
- 税務調査対応委託契約書:税務調査時の立会いや対応を依頼する契約
- 記帳代行業務委託契約書:帳簿の記帳作業そのものを外部委託する契約
- 秘密保持契約書(NDA):顧問契約に付随して取引先情報や財務データの秘密保持を定める契約
これらの契約書は、いずれも電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)の要件を満たせば、電子契約として締結できます。電子署名法第3条では、本人による電子署名がなされた電磁的記録は、真正に成立したものと推定すると規定されています。
つまり、適切な電子署名の仕組みを使えば、紙に押印した契約書と同等の法的効力が認められます。税理士事務所特有の契約だから電子化できない、ということはありません。
ただし、税理士法に基づく業務の性質上、契約内容には守秘義務に関する条項が含まれることが一般的です。そのため、電子契約サービスを選ぶ際は、セキュリティ面も重要な判断基準になります。
紙の契約書と電子契約書を比較して分かること
税理士事務所との契約を電子化するかどうか判断するために、紙と電子それぞれの特徴を比較してみましょう。
コスト面の違い
紙の契約書には、印刷代、封筒代、郵送料(往復の場合は2回分)、さらに収入印紙が必要になるケースもあります。印紙税法上、顧問契約書が「継続的取引の基本となる契約書」(第7号文書)に該当する場合、1通あたり4,000円の収入印紙を貼付する必要があります。
一方、電子契約では印紙税が不要です。国税庁の見解として、電磁的記録により作成された契約書は、印紙税法上の「文書」に該当しないとされています。つまり、電子契約にするだけで印紙代を節約できます。
顧問契約を毎年更新している場合、紙の契約書では年間4,000円の印紙代に加え、郵送料や事務コストがかかります。5年間で見れば、印紙代だけでも20,000円です。複数の税理士事務所と契約している企業や、関連会社が多い場合はさらに大きな差になります。
業務効率の違い
紙の契約書は、作成から締結まで通常1〜2週間かかります。具体的には、契約書の作成・印刷、押印、封入、郵送、相手方での確認・押印、返送という流れです。担当者不在による遅延も珍しくありません。
電子契約であれば、このプロセスが大幅に短縮されます。契約書のPDFをアップロードし、相手方のメールアドレスを指定して送信。相手方はメール内のURLから署名画面にアクセスし、内容を確認して同意するだけです。早ければ即日で締結が完了します。
保管・管理の違い
紙の契約書は物理的な保管スペースが必要です。税理士事務所との契約書は最低でも5年間、場合によっては7年間の保存が求められます。書類が増えるほど、過去の契約を探すのに時間がかかるようになります。
電子契約ならクラウド上で保管されるため、検索機能を使って瞬時に目的の契約書を見つけられます。電子帳簿保存法が求める検索要件(取引年月日、取引金額、取引先)にも対応しやすくなります。
セキュリティの違い
紙の契約書は紛失や盗難のリスクがあります。また、改ざんされても発見が困難です。
電子契約では、タイムスタンプや電子署名により、契約の締結時刻や署名者が記録されます。改ざんの検出も技術的に可能です。アクセス権限の設定により、閲覧できる人を制限することもできます。
電子帳簿保存法と税理士事務所の関係を整理する
税理士事務所との契約を電子化する際、避けて通れないのが電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)への対応です。
電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存するためのルールを定めた法律です。2022年1月の改正で要件が大幅に緩和され、2024年1月からは電子取引データの電子保存が完全義務化されました。
税理士事務所との契約書を電子契約で締結した場合、その電子データは「電子取引」に該当します。そのため、以下の保存要件を満たす必要があります。
- 真実性の確保:タイムスタンプの付与、または訂正・削除の履歴が残るシステムの利用
- 可視性の確保:取引年月日、取引金額、取引先で検索できること
- 見読性の確保:ディスプレイやプリンターで内容を確認できること
ここで重要なのは、税理士事務所は多くの場合、顧問先に対して電子帳簿保存法への対応を指導する立場にあるということです。つまり、税理士事務所自身が電子契約を受け入れてくれるケースは増えています。
実際、会計ソフトのクラウド化が進む中で、日本税理士会連合会も電子化の推進に前向きな姿勢を示しています。顧問先から「契約書を電子化したい」と提案すれば、スムーズに応じてもらえる可能性は高いでしょう。
ただし、税理士事務所側にも対応体制の整備が必要です。事前に電子契約への対応可否を確認し、合意の上で進めることが大切です。
税理士事務所との電子契約に適したサービスの選び方
電子契約サービスは数多くありますが、税理士事務所との契約に使う場合は、いくつかの観点で比較することが重要です。
1. 立会人型か当事者型か
電子契約の方式は大きく2種類に分かれます。
- 当事者型:署名者本人がマイナンバーカードなどの電子証明書を使って署名する方式。法的証明力が高い反面、相手方にも電子証明書が必要で、導入のハードルが高い
- 立会人型:電子契約サービスが第三者として署名プロセスを仲介する方式。相手方はメール認証だけで署名でき、導入が容易
税理士事務所との顧問契約であれば、立会人型で十分な場合がほとんどです。立会人型であっても、電子署名法第3条の推定効が認められるとする総務省・法務省・経済産業省の連名による見解が示されています。
相手方(税理士事務所側)にアカウント登録や特別なソフトのインストールを求めなくてよい点は、実務上の大きなメリットです。
2. 費用体系
電子契約サービスの料金体系は、大きく分けて月額固定型と従量課金型があります。
- 月額固定型:一定の月額料金で、決まった件数まで送信可能。契約件数が多い企業向け
- 従量課金型:送信1件ごとに料金が発生。契約件数が少ない企業向け
- フリーミアム型:基本機能は無料で、上位機能は有料。まず試してみたい場合に最適
税理士事務所との契約は年に数回程度という企業が多いでしょう。その場合、月額数万円の大規模なサービスは過剰です。必要な機能を備えつつ、中小企業の利用頻度に見合った料金体系のサービスを選ぶことが重要です。
3. 操作のしやすさ
税理士事務所の担当者がITに詳しいとは限りません。署名を依頼する相手方が迷わず操作できるかどうかは、重要な選定ポイントです。
具体的には、以下の点を確認しましょう。
- 相手方がアカウント登録なしで署名できるか
- メール内のURLをクリックするだけで署名画面に進めるか
- スマートフォンからも操作できるか
- 日本語のインターフェースが用意されているか
4. 法的要件への対応
電子契約サービスを選ぶ際は、法的な要件を満たしているかも確認が必要です。
- 電子署名法に準拠した電子署名が付与されるか
- タイムスタンプが付与されるか
- 電子帳簿保存法の保存要件に対応しているか
- 署名証跡(署名日時、IPアドレス、操作ログ等)が記録されるか
たとえばSimple Contractでは、立会人型の電子契約に対応しており、相手方はメール内のURLから署名画面にアクセスするだけで契約を締結できます。署名時のIPアドレスやUser-Agent、タイムスタンプなどの証跡が自動的に記録される仕組みです。PDFのハッシュ値(SHA-256)も保存されるため、改ざん検出にも対応しています。
5. セキュリティ対策
税理士事務所との契約書には、顧問料の金額はもちろん、企業の財務状況に関する情報が含まれることもあります。また、NDAを電子化する場合、その中身自体が機密情報です。
セキュリティ面では、以下の点を確認しましょう。
- 通信がSSL/TLSで暗号化されているか
- 保管データが暗号化されているか
- アクセスログが記録されるか
- データセンターの所在地と信頼性
導入前に確認すべき3つのチェックポイント
実際に税理士事務所との契約を電子化する前に、確認しておくべきポイントを3つに絞ってお伝えします。
チェック1:税理士事務所側の対応状況
電子契約は双方の合意があって初めて成立します。いくら自社が電子化を進めたくても、税理士事務所側が対応していなければ実現しません。
事前に以下の点を確認しましょう。
- 電子契約での締結に対応可能か
- 過去に電子契約を利用した実績があるか
- 特定のサービスの指定や制限はあるか
最近では、税理士事務所側から電子契約を提案されるケースも増えています。デジタル庁が推進するデジタル社会の実現に向けた取り組みの中でも、士業の電子化は重要テーマの一つとして位置づけられています。
チェック2:既存の契約書の取り扱い
新規の契約を電子化するのは比較的簡単ですが、既存の紙の契約書をどうするかも考えておく必要があります。
- 既存の紙の契約書は有効期間満了まで紙のまま保管する
- 契約更新のタイミングで電子契約に切り替える
- 必要に応じて、既存契約を合意解約し、同内容で電子契約を新たに締結する
現実的には、次回の契約更新時に電子化するのが最もスムーズです。「来年度の顧問契約から電子契約に切り替えたい」と事前に伝えておくとよいでしょう。
チェック3:社内の承認フローとの整合性
中小企業であっても、契約書の締結には社内の承認プロセスがある場合があります。電子契約に切り替える際は、社内の承認フローも見直す必要があるかもしれません。
- 代表者の押印が必要な場合、電子署名の権限をどうするか
- 契約書の内容確認を誰が行うか
- 電子契約の締結操作を誰が担当するか
電子契約では、権限設定により承認フローをシステム上で管理できます。むしろ紙の時代よりも、「誰がいつ承認したか」が明確に記録されるため、ガバナンスの向上につながります。
税理士事務所との電子契約、こんな場面で特に便利
税理士事務所との契約を電子化すると、具体的にどんな場面で便利さを実感できるのでしょうか。いくつかの典型的なシーンを紹介します。
年度更新の手続き
顧問契約は通常1年ごとに更新されます。毎年の更新手続きが、メールでの署名依頼と数クリックの操作で完了するようになれば、事務負担は大幅に軽減されます。更新忘れや手続きの遅延も防ぎやすくなります。
追加業務の契約
税務調査が入った場合や、M&Aに伴うデューデリジェンスが必要になった場合など、緊急で追加の業務委託契約を締結するケースがあります。紙の契約書では郵送に数日かかりますが、電子契約なら即日対応が可能です。
複数拠点・複数事務所との契約
グループ会社を複数持つ企業や、税務と社会保険で別々の事務所に委託している場合、契約書の数は増えがちです。電子契約であれば、すべての契約をクラウド上で一元管理でき、ステータスも一目で把握できます。
リモート環境での契約
経営者が出張中や在宅勤務中であっても、スマートフォンやパソコンから契約の確認・署名が可能です。「社長が不在で押印できない」という理由で契約が遅れることがなくなります。
監査対応
税務監査や会計監査の際に、過去の契約書を提出する必要が生じることがあります。電子契約であれば、検索機能を使って即座に該当の契約書を見つけられます。証跡情報も自動的に記録されているため、契約の有効性を証明する資料としても活用できます。
電子化のデメリットや注意点も知っておく
公平な判断のために、電子契約のデメリットや注意点も確認しておきましょう。
初期の学習コスト
新しいシステムの導入には、操作方法の習得が必要です。特に、これまでITツールをあまり使ってこなかった企業では、担当者への教育に一定の時間がかかるかもしれません。ただし、近年の電子契約サービスは直感的に操作できるものが多く、この障壁はかなり低くなっています。
相手方の理解が必要
先述のとおり、電子契約は相手方の同意と協力が不可欠です。税理士事務所によっては、事務所の方針として紙の契約書を好む場合もあります。無理に押し付けるのではなく、メリットを説明した上で合意を得ることが大切です。
システム障害のリスク
クラウドサービスである以上、サーバー障害やメンテナンスにより一時的に利用できなくなる可能性はあります。重要な契約の締結日が迫っている場合は、余裕を持ったスケジュールで進めましょう。
長期保存の信頼性
契約書は長期間保存する必要があるため、サービス提供会社の事業継続性も考慮すべきです。万が一サービスが終了した場合に、データのエクスポートが可能かどうかを確認しておくと安心です。
すべての契約が電子化できるわけではない
税理士事務所との契約書は電子化が可能ですが、法律上、一部の書類は紙での作成が義務づけられています。たとえば、定期借地契約や事業用定期借地権の設定契約は書面(公正証書)が必要です。自社で取り扱う契約書全体を見渡し、電子化できるものとできないものを整理しておきましょう。
まとめ:自社に合った方法で一歩ずつ進める
税理士事務所との契約書を電子化することは、コスト削減、業務効率の向上、法令対応の強化など、多くのメリットがあります。電子署名法や電子帳簿保存法の整備により、法的な基盤も整っています。
一方で、相手方との合意形成や社内体制の整備など、準備すべきこともあります。すべてを一度に切り替える必要はありません。まずは次回の契約更新から電子化を始めるなど、段階的に進めるのが現実的です。
電子契約サービスを選ぶ際は、自社の契約件数や予算、相手方の対応状況を踏まえて、無理のない範囲で検討してみてください。多くのサービスでは無料プランやトライアル期間が用意されているため、実際に操作感を試してから判断するのも一つの方法です。
税理士事務所との契約という身近なところから電子化を始めることで、社内全体のペーパーレス化を進めるきっかけにもなるでしょう。

