士業との契約書、紙のままで大丈夫?
弁護士に顧問契約を依頼するとき、税理士と業務委託契約を交わすとき、司法書士に登記手続きを依頼するとき。こうした士業との契約書を、いまだに紙で取り交わしている中小企業は少なくありません。
「先生が紙で送ってくるから」「専門家との契約だから電子では不安」。こうした声をよく耳にします。しかし結論から言えば、士業との契約にも電子契約は問題なく使えます。
電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)の第3条では、本人による電子署名が行われた電子文書について、真正に成立したものと推定すると定めています。この規定は契約の相手方が士業であっても同様に適用されます。
つまり、法的には紙の契約書と同等の効力が認められているのです。にもかかわらず紙のまま運用しているとすれば、それは慣習に引きずられているだけかもしれません。
本記事では、士業との契約を電子化するメリットや注意点を、中小企業の経営者向けにわかりやすく整理します。
士業との契約で電子契約が使えるケースと使えないケース
まず押さえておきたいのは、士業との契約すべてが電子化できるわけではないという点です。大半の契約は電子化可能ですが、一部例外があります。
電子契約が使える代表的なケースは以下のとおりです。
- 弁護士との顧問契約書
- 税理士との税務顧問契約書・業務委託契約書
- 社会保険労務士との顧問契約書
- 行政書士への業務委託契約書
- 司法書士への登記業務委託契約書
- 中小企業診断士へのコンサルティング契約書
これらはいずれも当事者間の合意に基づく私文書であり、電子署名法の適用対象です。紙で締結する場合と法的効力に差はありません。
一方で、注意が必要なケースもあります。例えば、公正証書が必要な契約や、裁判所への提出を前提とした文書は、現時点では紙での対応が求められる場合があります。また、不動産の登記申請書そのものは法務局のオンライン申請制度を利用する必要があり、一般的な電子契約サービスでは対応できません。
ただし、こうした例外はあくまで行政手続きや公的機関への提出文書に限られます。士業との間で取り交わす契約書そのものは、ほぼすべて電子化が可能と考えてよいでしょう。
判断に迷ったときは、契約の相手方である士業の先生に「電子契約でお願いできますか」と確認するのが確実です。最近は士業側でも電子契約への理解が進んでおり、快諾されるケースが増えています。
紙の契約書を続けるリスクと電子化のメリット
士業との契約を紙のまま続けることには、見えにくいコストやリスクがあります。逆に電子化することで得られるメリットは具体的です。
まず、コスト面のメリットです。紙の契約書では印刷費、郵送費、収入印紙代がかかります。特に収入印紙は見落としがちなコストです。印紙税法上、電子契約は「文書」に該当しないため印紙税が不要とされています。国税庁も、電磁的記録により作成された契約書は印紙税の課税対象外であるとの見解を示しています。
仮に年間10件の顧問契約・業務委託契約を締結している場合、契約金額に応じて1件あたり200円〜数千円の印紙税が発生します。これが毎年積み重なると、無視できない金額になります。
次に、業務効率の面です。紙の契約書では以下のような手間が発生します。
- 契約書を印刷して製本する
- 押印して封筒に入れ郵送する
- 相手方の返送を待つ
- 届いた契約書を確認してファイリングする
この一連の作業に、片方あたり数日〜1週間程度かかることも珍しくありません。電子契約であれば、メールで署名依頼を送り、相手方がオンラインで同意するだけです。早ければ当日中に締結が完了します。
さらに、管理面のメリットも見逃せません。紙の契約書はキャビネットに保管するため、必要なときに探し出すのに手間がかかります。「あの税理士との契約書、どこにしまったか」と社内で探し回った経験はないでしょうか。電子契約なら検索一つで該当の契約書を呼び出せます。
そしてセキュリティ面です。紙の契約書は紛失や盗難、災害による消失のリスクがあります。電子契約であれば、クラウド上に暗号化保存されるため、物理的な損壊リスクを大幅に低減できます。
こうしたメリットは、忙しい中小企業の経営者にとって特に大きいはずです。士業への依頼はただでさえ専門的で手間のかかる業務ですから、契約手続きだけでもスムーズにできれば助かるのではないでしょうか。
士業側が電子契約を受け入れてくれるのか
「メリットはわかったけど、先生が嫌がるのでは」。経営者からよく聞く不安です。
確かに数年前までは、士業の間で電子契約への抵抗感がありました。しかし状況は変わってきています。日本弁護士連合会は弁護士業務のデジタル化を推進する方針を示していますし、日本税理士会連合会も電子申告の普及に積極的です。こうした流れの中で、契約書の電子化に対する士業側のハードルは着実に下がっています。
実際に、士業側で電子契約の導入が進んでいる背景には、いくつかの理由があります。
- 顧客数が多い事務所ほど紙の管理負担が大きい
- リモートワークの普及で事務所に出向かない働き方が広がった
- 電子帳簿保存法の改正で電子データの保存要件が整備された
- クライアント側から電子契約を求める声が増えた
特に注目したいのは最後の点です。経営者のほうから「電子契約で対応してほしい」と伝えることで、士業側が導入を検討するきっかけになることがあります。
もし相手の士業がまだ電子契約に慣れていない場合でも、立会人型と呼ばれる方式の電子契約サービスであれば、相手方にアカウント登録を求めません。メールで届いたURLをクリックし、内容を確認して同意ボタンを押すだけです。パソコンが苦手な方でも抵抗なく対応できます。
「相手に負担をかけたくない」という気持ちがあるなら、なおさら立会人型の電子契約は適しています。操作が簡単であること、アカウント作成が不要であることを伝えれば、受け入れてもらえる可能性は高いでしょう。
中小企業が士業との電子契約を始めるための3ステップ
では、実際にどう始めればよいのか。具体的な手順を3つのステップで説明します。
ステップ1:電子化する契約書を選定する
まずは現在、士業と取り交わしている契約書を一覧にしてみましょう。顧問契約、業務委託契約、秘密保持契約(NDA)など、種類を洗い出します。そのうえで、電子化しても問題ないものを選びます。前述のとおり、ほとんどの契約は電子化可能です。
最初から全契約を電子化する必要はありません。まずは更新時期が近い顧問契約から始めるなど、無理のない範囲でスタートするのがおすすめです。
ステップ2:電子契約サービスを選ぶ
電子契約サービスを選ぶ際のポイントは主に3つあります。
- 相手方のアカウント登録が不要か(立会人型かどうか)
- 料金体系が中小企業に適しているか
- 操作がシンプルで、ITに詳しくなくても使えるか
大手のサービスは機能が豊富な反面、月額費用が高額になりがちです。中小企業であれば、必要な機能に絞ったシンプルなサービスのほうがコストパフォーマンスに優れます。
例えば、Simple Contractは中小企業向けに設計された立会人型の電子契約サービスです。相手方にアカウント登録を求めず、PDFをアップロードして送信するだけで契約締結が完了します。月額費用も抑えられているため、契約件数が多くない企業でも導入しやすい設計になっています。
ステップ3:士業の先生に電子契約を提案する
サービスを決めたら、契約更新のタイミングなどに合わせて士業の先生に提案します。伝えるポイントは以下の3つです。
- 法的に有効な方式であること(電子署名法第3条に基づく)
- 相手方の操作はURLクリックと同意ボタンだけであること
- アカウント登録やソフトのインストールは不要であること
この3点を簡潔に伝えれば、多くの士業の先生は前向きに検討してくれるはずです。もし不安がある場合は、まず1件だけ試してみることを提案してもよいでしょう。
電子契約導入時に確認しておきたい法的ポイント
最後に、士業との電子契約を導入する際に確認しておきたい法的なポイントを整理します。
電子署名法との関係
電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)の第3条により、本人による一定の電子署名が付された電子文書は、真正に成立したものと推定されます。立会人型電子契約においては、契約当事者の指示に基づきサービス提供事業者が電子署名を付す形式が一般的です。
この点について、2020年に総務省・法務省・経済産業省の3省連名で、立会人型電子契約サービスにおける電子署名の法的位置づけに関する見解が示されました。利用者の意思に基づいて電子署名が付される場合には、電子署名法第3条の要件を満たしうるとされています。
電子帳簿保存法への対応
電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)の2022年改正により、電子取引のデータ保存が義務化されました。電子契約で締結した文書も、この保存要件に従って適切に管理する必要があります。
具体的には、以下の要件を満たす必要があります。
- タイムスタンプの付与、または訂正削除の履歴が確認できること
- 取引先名、日付、金額での検索ができること
- ディスプレイ等で整然と表示・出力できること
電子契約サービスを選ぶ際には、こうした保存要件に対応しているかどうかも確認しておくと安心です。多くのサービスでは、タイムスタンプの付与や検索機能が標準で備わっています。
印紙税について
先述のとおり、電子契約では印紙税が不要です。これは国税庁の見解に基づくもので、電磁的記録は印紙税法上の「文書」に該当しないためです。士業との契約でも同様に適用されるため、印紙税の節約効果が得られます。
ただし、電子契約で締結した後に紙で印刷して双方が署名・押印した場合は、その紙が課税文書に該当する可能性があります。電子契約のメリットを活かすためにも、原本はあくまで電子データとして管理することが重要です。
士業との契約は、中小企業にとって事業の基盤を支える重要なものです。だからこそ、契約手続きそのものを効率化し、本来の経営判断に集中できる環境を整えることには意味があります。まずは身近な士業との契約から、電子化を検討してみてはいかがでしょうか。

