「契約書の郵送待ちでプロジェクト開始が遅れた」「クライアントとの契約更新作業に毎月かなりの時間を取られている」——IT企業やWeb制作会社で働く方なら、こうした経験をお持ちではないでしょうか。
デジタル技術を駆使してサービスを提供しているIT企業であっても、意外と契約業務は紙ベースのままというケースは少なくありません。しかし、契約業務こそDX化の効果が出やすい領域です。本記事では、IT企業における契約DXの基礎知識から、具体的な導入方法までを丁寧に解説します。
なぜIT企業こそ契約業務のDX化が必要なのか
IT企業は他業種と比べて契約の発生頻度が高い傾向にあります。受託開発であれば案件ごとに業務委託契約や秘密保持契約(NDA)が必要ですし、SaaS企業であれば利用規約の同意取得や月額契約の管理が発生します。Web制作会社でも、制作案件ごとの契約に加え、保守運用契約など継続的な契約管理が求められます。
これらの契約を紙で処理していると、以下のような問題が生じやすくなります。
- 契約書の郵送に数日〜1週間かかり、プロジェクト開始が遅延する
- 契約書の保管場所が分散し、過去の契約内容を確認するのに時間がかかる
- 契約更新時期の管理が煩雑になり、更新漏れのリスクがある
- リモートワーク時に押印のためだけに出社が必要になる
- 印紙代や郵送費などのコストが積み重なる
IT企業は本来、こうした非効率を解消するソリューションを提供する側の存在です。自社の契約業務がアナログなままでは、クライアントへの説得力も欠けてしまいます。契約業務のDX化は、業務効率の向上だけでなく、企業としての信頼性向上にもつながるのです。
契約DXの中心となる電子契約とは
契約業務のDX化において、中心的な役割を果たすのが電子契約です。電子契約とは、紙の契約書と印鑑の代わりに、電子データと電子署名を用いて契約を締結する方法です。
電子契約には大きく分けて「当事者署名型」と「立会人型(事業者署名型)」の2種類があります。
当事者署名型は、契約当事者双方が電子証明書を取得し、それぞれが電子署名を行う方式です。高いセキュリティが確保できる一方、相手方にも電子証明書の取得を求める必要があり、導入のハードルが高くなります。
立会人型は、電子契約サービス事業者が契約締結の場を提供し、当事者の本人確認を経て契約を成立させる方式です。相手方は電子証明書を持っていなくても、メールアドレスさえあれば署名に参加できるため、導入しやすいのが特徴です。
IT企業が取引先と契約を結ぶ場合、相手方がIT企業とは限りません。むしろ、システム開発やWeb制作の発注元は、製造業や小売業など、必ずしもITリテラシーが高くない業種であることも多いでしょう。そのため、相手方に特別な準備を求めない立会人型電子契約が適しているケースが多くなります。
電子契約の法的効力について不安を感じる方もいるかもしれません。しかし、電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)により、一定の要件を満たす電子署名には、手書きの署名や押印と同等の法的効力が認められています。立会人型電子契約についても、2020年に法務省・経済産業省・総務省から出された見解により、適切に運用されていれば法的に有効であることが確認されています。
IT企業でよく使われる契約書と電子化のポイント
IT企業で頻繁に取り交わされる契約書には、それぞれ電子化における注意点があります。主な契約書について見ていきましょう。
秘密保持契約書(NDA)
プロジェクト開始前に締結することが多いNDAは、電子契約との相性が良い契約書の一つです。案件の検討段階で素早く締結できれば、商談のスピードアップにつながります。ただし、秘密情報の定義や有効期間については、電子化に関係なく慎重に内容を確認する必要があります。
業務委託契約書
システム開発やWeb制作の受発注で使用される業務委託契約書は、契約金額によっては印紙税が発生する契約類型です。電子契約であれば印紙税が不要になるため、コスト削減効果が大きい契約書といえます。委託内容、納品物、検収条件、知的財産権の帰属などは、契約書のテンプレートを整備しておくと効率的です。
SaaS利用契約・サービス利用規約
SaaS企業の場合、多数の顧客との契約を効率的に管理する必要があります。サービス利用規約への同意取得を電子化することで、契約管理の負担を大幅に軽減できます。また、規約改定時の同意取得もスムーズに行えるようになります。
保守運用契約書
Web制作後の保守運用契約は、月額または年額の継続契約となることが多く、更新管理が重要です。電子契約システムの中には、契約期限のアラート機能を備えたものもあり、更新漏れを防ぐのに役立ちます。
雇用契約書・労働条件通知書
従業員との雇用契約書や労働条件通知書も電子化が可能です。特にリモートワークを推進するIT企業では、入社手続きの電子化ニーズが高まっています。労働基準法の改正により、労働条件通知書の電子交付も認められています。
電子契約導入のステップと注意点
電子契約の導入は、以下のステップで進めるとスムーズです。
ステップ1:現状の契約業務を棚卸しする
まず、自社でどのような契約書が、どのくらいの頻度で発生しているかを把握します。契約書の種類、年間の件数、現在の処理方法、課題などを整理しましょう。この作業により、電子化の優先順位や期待できる効果が明確になります。
ステップ2:電子契約サービスを選定する
電子契約サービスは複数存在し、機能や料金体系もさまざまです。選定時には以下の点を確認しましょう。
- 署名方式(立会人型か当事者署名型か、または両方対応か)
- 相手方の使いやすさ(アカウント登録不要で署名できるか)
- 料金体系(月額固定か従量課金か、送信件数の制限はあるか)
- 契約書の保管・検索機能
- セキュリティ対策(暗号化、アクセス制御など)
- 他システムとの連携(CRM、会計ソフトなど)
- サポート体制
中小規模のIT企業であれば、まずは立会人型で、シンプルな料金体系のサービスから始めるのがおすすめです。Simple Contractのような、相手方のアカウント登録が不要で、メールアドレスだけで署名依頼ができるサービスであれば、取引先への説明もしやすくなります。
ステップ3:社内ルールを整備する
電子契約を導入する際は、社内の契約業務フローや決裁ルールも見直す必要があります。誰が契約書を作成し、誰が承認し、誰が送信するのか、役割分担を明確にしましょう。また、電子契約に移行する契約書の範囲を決め、当面は紙との併用が必要なケースも想定しておきます。
ステップ4:取引先への説明と同意取得
電子契約への移行は、取引先の理解と協力が不可欠です。電子契約のメリット(スピード、コスト削減、保管の容易さなど)を説明し、同意を得ましょう。IT企業の取引先であれば、電子契約に抵抗を感じる方は少ないと考えられますが、丁寧な説明を心がけることで、信頼関係の維持につながります。
ステップ5:段階的に移行する
いきなりすべての契約を電子化するのではなく、まずはNDAや定型的な業務委託契約など、比較的シンプルな契約から始めるのが無難です。運用に慣れてきたら、対象範囲を広げていきましょう。
契約DXで得られる具体的な効果
電子契約を中心とした契約業務のDX化により、IT企業は以下のような効果を期待できます。
契約締結までの時間短縮
紙の契約書では、印刷・押印・郵送・返送という工程に数日から1週間程度かかることがあります。電子契約であれば、契約書の送信から署名完了まで、早ければ数時間で完了します。プロジェクト開始の遅延を防ぎ、ビジネスのスピードを上げられます。
コスト削減
印紙税は契約金額に応じて数百円から数万円かかりますが、電子契約では不要です。また、印刷代、封筒代、郵送費なども削減できます。年間の契約件数が多いほど、削減効果は大きくなります。
契約管理の効率化
電子契約システムには、契約書の検索機能や期限管理機能が備わっていることが多く、過去の契約内容の確認や更新管理が容易になります。紙の契約書をキャビネットから探し出す手間がなくなり、契約情報へのアクセス性が向上します。
リモートワークへの対応
電子契約であれば、インターネット環境さえあれば、どこからでも契約業務を行えます。押印のためだけの出社が不要になり、リモートワークを推進するIT企業にとっては必須の環境整備といえます。
セキュリティの向上
適切に運用された電子契約システムでは、契約書データは暗号化されて保管され、アクセス権限も細かく設定できます。紙の契約書のように、紛失や盗難、災害による消失のリスクを低減できます。また、誰がいつ契約書にアクセスしたかの記録が残るため、監査対応にも有効です。
まとめ:小さく始めて着実に効果を出す
IT企業における契約業務のDX化は、電子契約の導入から始めるのが効果的です。立会人型電子契約であれば、取引先に特別な準備を求めることなく、スムーズに導入できます。
契約DXは、一度にすべてを変える必要はありません。まずは発生頻度の高いNDAや業務委託契約から電子化を始め、徐々に範囲を広げていくアプローチが現実的です。中小規模のIT企業であれば、シンプルで使いやすい電子契約サービスを選び、小さく始めて着実に効果を積み上げていきましょう。
デジタル技術で顧客の課題を解決するIT企業だからこそ、自社の契約業務もデジタル化し、効率的な働き方を実現してください。

