介護施設や医療法人の運営において、契約書の管理は避けて通れない業務です。入居契約、サービス利用契約、雇用契約、業者との取引契約など、日々多くの書類が発生します。
「紙の契約書の管理が大変」「ご家族の署名をもらうために何度も訪問している」「契約更新の時期が近づくと事務作業が山積みになる」。こうした悩みを抱えている施設は少なくないでしょう。
電子契約は、こうした課題を解決する手段として注目されています。しかし、介護や医療の現場では「高齢のご利用者様やご家族が対応できるのか」「法的に問題ないのか」といった不安も根強くあります。
本記事では、介護施設・クリニック・医療法人における電子契約導入について、メリットとデメリットを公平に比較しながら解説します。導入を検討する際の判断材料としてお役立てください。
介護・医療業界で契約業務が負担になる理由とは
介護・医療業界における契約業務には、他業種とは異なる特有の課題があります。まずは現状の問題点を整理してみましょう。
第一に、契約の種類と量が多いことが挙げられます。介護施設を例にとると、入居時の契約だけでも、入居契約書、重要事項説明書、個人情報同意書、身元引受書など複数の書類が必要です。さらに、サービス内容の変更や契約更新のたびに新たな書類作成が発生します。
第二に、署名者が多岐にわたる点です。ご利用者様本人はもちろん、ご家族(身元引受人)、場合によっては成年後見人など、複数の関係者から署名を得る必要があります。遠方に住むご家族の場合、郵送でのやり取りに時間がかかることも珍しくありません。
第三に、保管と管理の手間があります。介護サービスに関する契約書は、サービス提供終了後も一定期間の保管が求められます。紙の書類は保管スペースを圧迫し、必要なときに該当書類を探し出すのにも時間がかかります。
第四に、人手不足の中での事務負担です。介護業界は慢性的な人材不足に直面しています。限られたスタッフで現場のケア業務と事務作業を両立させることは、大きな負担となっています。
こうした背景から、契約業務の効率化は多くの施設にとって切実な課題となっています。
電子契約と紙の契約書、法的効力に違いはあるのか
電子契約の導入を検討する際、最も気になるのは法的効力でしょう。結論から言えば、適切な方法で締結された電子契約は、紙の契約書と同等の法的効力を持ちます。
その根拠となるのが、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)です。同法第3条では、本人による電子署名が行われた電磁的記録は、真正に成立したものと推定すると定めています。つまり、法律上、電子契約は紙の契約と同じ扱いを受けるのです。
また、民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(e-文書法)により、多くの書類について電子保存が認められています。介護サービスに関連する契約書類についても、一定の要件を満たせば電子保存が可能です。
ただし、注意点もあります。介護保険法や老人福祉法に基づく一部の書類については、書面での交付が義務付けられているケースがあります。電子契約を導入する際は、どの書類に適用できるかを事前に確認することが重要です。
2021年のデジタル社会形成整備法の施行により、行政手続きにおける押印廃止が進みました。この流れを受けて、介護・医療分野でも電子化への対応が加速しています。法制度面では、電子契約導入の環境は整いつつあると言えるでしょう。
電子契約導入のメリットを具体的に比較する
電子契約を導入した場合、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。紙の契約書と比較しながら見ていきましょう。
時間の短縮
紙の契約書では、書類の作成、印刷、郵送、返送待ち、ファイリングという一連の作業に多くの時間を要します。特に郵送でのやり取りは、往復で1週間以上かかることも珍しくありません。
電子契約であれば、書類の送信から署名完了まで、早ければ数時間で完結します。遠方のご家族との契約でも、インターネット環境さえあれば即座に対応可能です。
コストの削減
紙の契約にかかるコストは、用紙代、印刷代、郵送費、保管費用など多岐にわたります。また、契約書によっては印紙税も発生します。
電子契約では、これらの費用の多くが不要になります。特に印紙税については、電子契約には課税されないため、高額な契約では大きな節約になります。印紙税法上、電子文書は課税文書に該当しないためです。
検索性と管理の効率化
紙の書類はファイリングに手間がかかり、必要なときに目的の書類を探し出すのに時間がかかります。また、保管スペースの確保も必要です。
電子契約であれば、契約書はデータとして保存されるため、キーワード検索で瞬時に目的の書類を見つけられます。保管スペースの問題も解消されます。
紛失・劣化リスクの軽減
紙の書類は、火災や水害で失われるリスクがあります。また、長期間保管していると劣化して読めなくなることもあります。
電子データは適切にバックアップを取ることで、こうしたリスクを大幅に軽減できます。
非対面での契約完結
感染症対策の観点からも、非対面で契約を完結できることは大きなメリットです。ご家族が遠方に住んでいる場合や、多忙で施設を訪問できない場合でも、オンラインで署名を完了できます。
導入前に知っておくべきデメリットと注意点
電子契約には多くのメリットがありますが、導入前に把握しておくべきデメリットや注意点もあります。公平な判断のために、課題面も確認しておきましょう。
ITリテラシーの問題
介護施設のご利用者様やそのご家族は、高齢の方が多い傾向にあります。スマートフォンやパソコンの操作に不慣れな方にとって、電子契約は心理的なハードルが高い場合があります。
この課題に対しては、操作が簡単なサービスを選ぶこと、必要に応じて対面でのサポートを行うことで対応できます。また、電子契約と紙の契約を併用し、相手に応じて使い分けるという方法もあります。
インターネット環境への依存
電子契約はインターネット環境が前提となります。通信障害が発生した場合や、ご家族がインターネット環境を持っていない場合は対応が難しくなります。
ただし、総務省の通信利用動向調査によると、インターネット利用率は年々上昇しており、60代でも約90%、70代でも約70%がインターネットを利用しています。環境面での障壁は徐々に低くなっていると言えます。
導入・運用コスト
電子契約サービスの利用には、月額料金や従量課金が発生します。契約件数が少ない施設では、紙の契約を続けた方がコスト面で有利な場合もあります。
導入を検討する際は、現在の契約業務にかかっているコスト(人件費含む)と、電子契約サービスの利用料を比較することが重要です。
業務フローの変更
電子契約を導入するには、既存の業務フローを見直す必要があります。スタッフへの研修や、新しい運用ルールの策定も必要です。導入初期は一時的に業務負担が増える可能性があります。
法的要件の確認
前述のとおり、介護・医療分野では書面での交付が義務付けられている書類があります。すべての契約を電子化できるわけではない点に注意が必要です。導入前に、電子化可能な書類と紙で残すべき書類を整理しておきましょう。
電子契約サービスを選ぶ際の比較ポイント
電子契約サービスは多数提供されていますが、介護・医療業界で導入する際には、以下のポイントを比較検討することをおすすめします。
操作の簡便さ
高齢のご家族にも署名をお願いするケースが多い介護業界では、署名者側の操作が簡単であることが重要です。アカウント登録不要で署名できるサービスや、スマートフォンからワンタップで署名できるサービスを選ぶと、相手への負担を軽減できます。
立会人型か当事者型か
電子契約には大きく分けて「立会人型」と「当事者型」があります。立会人型は、事業者が本人確認を行い、電子契約サービスが立会人として契約の成立を証明する方式です。当事者型は、署名者本人が電子証明書を取得して署名する方式です。
介護施設での利用を考えると、署名者に電子証明書の取得を求めない立会人型の方が導入しやすいでしょう。法的効力については、どちらの方式でも適切に運用すれば問題ありません。
料金体系
電子契約サービスの料金体系は、月額固定制、従量課金制、またはその組み合わせなど様々です。自施設の契約件数を把握したうえで、最も適した料金体系のサービスを選びましょう。
初期費用の有無も確認ポイントです。無料トライアル期間があるサービスであれば、実際の使い勝手を確認してから導入を決定できます。
セキュリティ対策
契約書には個人情報が含まれるため、セキュリティ対策は重要な確認ポイントです。データの暗号化、アクセス権限の管理、監査ログの記録などの機能が備わっているかを確認しましょう。
サポート体制
導入時や運用中に疑問が生じた際、迅速にサポートを受けられるかどうかも重要です。電話やチャットでのサポート対応があるか、導入支援サービスがあるかなどを確認しておくとよいでしょう。
既存システムとの連携
介護ソフトや会計ソフトなど、既存のシステムと連携できるかどうかも検討材料になります。API連携に対応しているサービスであれば、業務の自動化をさらに進められる可能性があります。
介護施設での電子契約、具体的な活用シーン
電子契約は、介護施設のどのような場面で活用できるのでしょうか。具体的なシーンを挙げてみましょう。
入居契約・サービス利用契約
新規入居時の契約は、電子契約の代表的な活用シーンです。入居契約書、重要事項説明書、個人情報取扱同意書などを一度に送信し、ご家族にオンラインで署名してもらうことができます。
従来は、ご家族の来所日程を調整し、長時間かけて書類を説明し、署名をいただいていた作業が、大幅に効率化されます。ご家族も施設を訪問する回数を減らせるため、双方にとってメリットがあります。
契約更新・変更契約
サービス内容の変更や料金改定に伴う契約更新も、電子契約で効率化できます。変更点を明記した書類を送信し、オンラインで同意を得られるため、更新作業がスムーズに進みます。
雇用契約・労務関連書類
スタッフとの雇用契約書、秘密保持誓約書、身元保証書なども電子契約の対象になります。採用時の手続きが効率化されるほか、契約更新時の作業負担も軽減されます。
業者との取引契約
食材納入業者、清掃業者、医療機器メーカーなど、取引先との契約書も電子化できます。業者側も電子契約に対応しているケースが増えているため、導入のハードルは下がっています。
同意書・承諾書
医療行為への同意書、外出・外泊許可の承諾書なども、緊急性が高くない場合は電子契約で対応できます。ご家族が遠方にいる場合でも、迅速に同意を得られます。
導入を成功させるためのステップと判断基準
電子契約の導入を検討している施設に向けて、成功のためのステップと判断基準をまとめます。
ステップ1:現状の棚卸し
まずは、現在どのような契約書類があり、年間どのくらいの件数が発生しているかを把握しましょう。また、契約業務にどのくらいの時間とコストがかかっているかも試算します。
ステップ2:電子化可能な書類の選定
すべての書類を一度に電子化する必要はありません。まずは電子化のメリットが大きく、法的にも問題のない書類から始めることをおすすめします。入居契約書や雇用契約書などは、電子化の効果が出やすい書類です。
ステップ3:サービスの比較検討
前章で挙げた比較ポイントをもとに、複数のサービスを比較検討しましょう。可能であれば無料トライアルを利用し、実際の操作感を確認することをおすすめします。
ステップ4:スモールスタート
最初から全面的に導入するのではなく、一部の契約から試験的に始めることで、リスクを抑えながら効果を検証できます。問題がなければ徐々に対象を拡大していきましょう。
ステップ5:スタッフへの研修
電子契約システムの操作方法だけでなく、ご利用者様やご家族への説明の仕方についても研修を行いましょう。「なぜ電子契約を導入するのか」「どのようなメリットがあるのか」を説明できるようにしておくことで、相手の理解と協力を得やすくなります。
判断基準:導入すべきかどうか
以下のような状況に当てはまる施設は、電子契約導入のメリットが大きいと考えられます。
- 年間の契約件数が多い(目安として年間50件以上)
- ご家族が遠方に住んでいるケースが多い
- 契約業務に多くの時間を費やしている
- 書類の保管スペースに困っている
- 契約書の検索や管理に手間がかかっている
一方、契約件数が少なく、ご家族のほとんどが近隣に住んでいて、現状の運用に大きな問題がない場合は、無理に導入する必要はないかもしれません。
まとめ:電子契約は介護業界の課題解決につながるか
介護施設・クリニック・医療法人における電子契約導入について、メリットとデメリットを比較しながら解説してきました。
電子契約は、契約業務の時間短縮、コスト削減、管理の効率化といった面で大きなメリットをもたらす可能性があります。法的にも、電子署名法やe-文書法により、適切に運用すれば紙の契約と同等の効力が認められています。
一方で、高齢のご利用者様やご家族への配慮、導入コスト、業務フローの変更といった課題もあります。これらを踏まえたうえで、自施設の状況に合わせて導入を検討することが重要です。
電子契約サービスを選ぶ際は、操作の簡便さ、料金体系、セキュリティ対策、サポート体制などを比較し、現場のニーズに合ったものを選びましょう。
Simple Contractは、立会人型の電子契約サービスとして、アカウント登録不要で署名できる簡単な操作性を特徴としています。中小規模の事業者でも導入しやすい料金体系で、介護施設での利用にも対応しています。導入を検討される場合は、無料トライアルで実際の使い勝手をお試しいただけます。
電子契約は、介護業界が抱える人手不足や業務負担の課題を解決する一つの手段です。現場の状況を踏まえながら、効果的な活用方法を検討してみてはいかがでしょうか。

