税理士との顧問契約、まだ紙で交わしていませんか?
毎年、あるいは契約更新のたびに税理士事務所から届く顧問契約書。押印して返送し、控えを保管する——この一連の作業を当たり前だと思っていませんか。
中小企業の経営者にとって、税理士との顧問契約は経営の基盤となる重要な取り決めです。しかし契約の「結び方」自体に目を向ける方は、まだ多くありません。
2021年のデジタル改革関連法の成立以降、行政手続きを含むさまざまな分野で電子化が急速に進んでいます。国税庁が推進する電子帳簿保存法の改正もあり、税務周辺の書類を電子化する流れは年々強まっています。
こうした動きの中で、税理士との顧問契約を電子契約に切り替える企業が増えてきました。紙の契約書を郵送でやり取りするのではなく、オンライン上で契約を締結する方法です。
本記事では、税理士の顧問契約を電子化するメリット・デメリット、紙との比較、電子契約サービスの選び方まで、経営者が判断するために必要な情報を整理してお伝えします。
そもそも税理士の顧問契約とは何を取り決めるものか
電子化の話に入る前に、税理士の顧問契約で取り決める内容を確認しましょう。判断の土台となる知識です。
税理士との顧問契約書には、一般的に以下の事項が記載されます。
- 業務範囲(記帳代行、月次決算、確定申告、年末調整など)
- 顧問料の金額と支払い条件
- 契約期間と更新条件
- 解約に関する条件
- 秘密保持義務
- 損害賠償の範囲
- 報酬の改定に関する取り決め
これらは一般的な業務委託契約と似た構成ですが、税理士法に基づく守秘義務が法律上すでに課されている点が特徴です。契約書はこれを改めて明文化し、双方の認識をそろえる役割を果たしています。
日本税理士会連合会が公開している顧問契約書のひな形では、業務範囲の明確化と報酬規定が重視されています。なお、税理士の顧問料の相場は企業の規模や依頼内容によって大きく異なりますが、中小企業では月額2万円から5万円程度が一般的な目安とされています。
ここで押さえておきたいのは、顧問契約書そのものには法律上「紙でなければならない」という制約がない点です。電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)第3条により、本人による電子署名が付された電磁的記録は、真正に成立したものと推定されます。つまり、電子契約で交わした顧問契約書も法的に有効です。
紙の顧問契約書で発生している「見えないコスト」
紙の契約書は長年使われてきた方法であり、それ自体に大きな問題はありません。しかし、経営者が見落としがちなコストが発生していることは事実です。
まず、直接的なコストを整理しましょう。
- 印刷費用(契約書の印刷、製本)
- 郵送費用(書留郵便の場合は1通あたり480円程度)
- 収入印紙代(契約金額に応じて200円〜)
- 保管費用(ファイリング用品、保管スペース)
印紙税法上、請負に関する契約書(2号文書)や継続的取引の基本となる契約書(7号文書)には収入印紙が必要です。税理士の顧問契約書が7号文書に該当する場合、1通あたり4,000円の印紙が必要になります。
ただし、すべての顧問契約書が課税文書になるわけではありません。契約内容や金額の記載方法によって判断が変わるため、税理士と相談のうえ確認することをおすすめします。
次に、見えにくい間接コストもあります。
- 契約書の作成・確認に要する時間(経営者、担当者双方)
- 押印のために出社が必要になるケース
- 郵送の往復にかかる日数(通常3〜7営業日)
- 更新時の再作成・再郵送の手間
- 過去の契約書を探す検索時間
特に顧問契約は1年ごとに更新する形が一般的です。更新のたびにこのプロセスが発生するため、長期で見ると無視できないコストになります。
中小企業庁の調査によると、中小企業における間接業務のコストは売上の数パーセントに及ぶことがあり、契約書関連の事務もその一部を占めています。年間で複数の税理士や社労士、弁護士との契約を管理している企業であれば、その影響はさらに大きくなるでしょう。
電子契約に切り替えると何が変わるのか——5つの具体的な違い
紙の契約書から電子契約に切り替えた場合、実際に何が変わるのでしょうか。5つのポイントに分けて比較します。
1. 締結までのスピード
紙の契約書では、作成から署名・返送まで通常3〜7営業日かかります。電子契約なら、メールで送信してから相手がオンラインで署名するまで、早ければ当日中に完了します。
税理士事務所側も複数のクライアントとの契約を管理しているため、処理が早く進むことは双方にとってメリットです。
2. コストの削減
電子契約で交わした契約書は、印紙税法上の「文書」に該当しません。そのため収入印紙が不要です。国税庁の見解として、電磁的記録により作成された契約は課税文書に該当しないとされています。
加えて、印刷費・郵送費がゼロになります。年間の契約関連コストを計算すると、1件あたり数千円の削減になるケースも少なくありません。
3. 保管・管理の効率化
紙の契約書はファイルに綴じて保管し、必要なときに物理的に探す必要があります。電子契約であれば、クラウド上で一元管理でき、検索も容易です。
契約期間の更新時期をアラートで通知する機能を持つサービスもあり、更新漏れの防止にも役立ちます。
4. セキュリティと証跡
紙の契約書は紛失や劣化のリスクがあります。一方、電子契約では契約締結時の証跡(タイムスタンプ、IPアドレス、操作履歴など)が自動で記録されます。
「誰が」「いつ」「何に」同意したかが明確に残るため、万が一のトラブル時にも事実関係を確認しやすくなります。
5. リモート対応
出張先や自宅からでも契約の確認・署名ができます。経営者が多忙で事務所に不在がちな場合や、税理士が遠方にいる場合でも、場所を選ばず契約を締結できるのは大きな利点です。
税理士側は電子契約に対応しているのか——現状と課題
電子契約に切り替えたいと思っても、税理士側が対応していなければ実現しません。この点は多くの経営者が気になるところでしょう。
結論からいえば、対応する税理士事務所は増加傾向にあります。背景には以下の要因があります。
- 電子帳簿保存法の改正により、税務関連書類の電子保存が普及していること
- コロナ禍を経て、リモート対応の需要が高まったこと
- クラウド会計ソフト(freee、マネーフォワードなど)の浸透により、IT活用が進んでいること
ただし、すべての税理士事務所が電子契約に前向きというわけではありません。特に以下のようなケースでは、まだ紙での対応を希望する事務所もあります。
- 個人経営の小規模な税理士事務所
- 高齢の税理士が代表を務める事務所
- ITツールの導入が進んでいない事務所
こうした場合は、いきなり電子契約を提案するのではなく、段階的に進めることが重要です。たとえば、まず請求書のやり取りをメールに切り替え、次に契約書の電子化を提案する——といったステップを踏むとスムーズです。
なお、電子契約を受け入れてもらいやすくするには、相手方にアカウント登録が不要なサービスを選ぶこともポイントです。税理士側の手間を最小限にすることで、導入のハードルを下げられます。
電子契約サービスを選ぶときの7つのチェックポイント
税理士との顧問契約を電子化するにあたり、どのサービスを選べばよいのでしょうか。中小企業の経営者が確認すべき7つのポイントを整理しました。
1. 法的有効性の担保
電子署名法に準拠した署名方式を採用しているかは最も重要な確認事項です。立会人型電子署名(事業者署名型)であれば、第三者であるサービス事業者が本人確認と署名の証跡を管理するため、高い信頼性を確保できます。
2. 料金体系
中小企業にとって、コストは大きな判断要素です。サービスによって料金体系は異なりますが、以下の点を確認しましょう。
- 月額基本料金
- 1通あたりの送信料金
- 保管料金の有無
- 無料プランの有無と制限内容
税理士との顧問契約は年に1〜2回の締結が一般的です。月に数十通の契約を処理する企業でなければ、高額なプランは不要かもしれません。送信通数に応じた従量課金型か、低コストの月額固定プランが適している場合が多いでしょう。
3. 相手方のアカウント登録が不要か
税理士側にアカウント登録を求めると、導入のハードルが上がります。相手方はメールのリンクから契約内容を確認し、そのまま署名できるタイプのサービスが望ましいです。
4. テンプレート機能
顧問契約書の内容は、更新時に大きく変わることは少ないです。一度作成した契約書をテンプレートとして保存し、次回から再利用できる機能があると便利です。
5. 証跡の記録内容
万が一の紛争に備えて、どのような証跡が記録されるかを確認しましょう。タイムスタンプ、IPアドレス、User-Agent(ブラウザ情報)、契約書PDFのハッシュ値などが記録されるサービスであれば、十分な証拠力があります。
6. 保管機能とデータ保全
締結済みの契約書がクラウド上で安全に保管されるかも重要です。暗号化された状態でデータが保存されること、バックアップ体制が整っていることを確認しましょう。
7. 操作性とサポート体制
ITに詳しくない経営者でも直感的に操作できるか、困ったときにサポートを受けられるか。導入前にトライアルやデモを利用して、実際の操作感を確かめることをおすすめします。
たとえば、Simple Contractのような立会人型電子契約サービスでは、相手方のアカウント登録が不要で、メール内のURLから直接署名できる仕組みを採用しています。証跡として時刻・IP・User-Agent・PDFハッシュが記録されるため、税理士との顧問契約にも安心して利用できます。
導入前に確認しておきたい3つの注意点
電子契約は便利な手段ですが、導入前に確認しておくべき点もあります。
注意点1:税理士との事前合意
電子契約への移行は、一方的に進められるものではありません。税理士に対して電子契約の仕組みを説明し、合意を得ることが前提です。特に「署名方法が変わるだけで、契約内容自体は変わらない」ことを丁寧に伝えましょう。
注意点2:既存契約との整合性
すでに紙で締結済みの顧問契約がある場合、次回の更新タイミングで電子契約に切り替えるのが自然です。契約期間の途中で契約方法だけを変更する必要は通常ありません。
切り替え時には「本契約の締結をもって、従前の○年○月○日付け顧問契約に代わるものとする」といった文言を入れておくと明確です。
注意点3:電子帳簿保存法への対応
電子契約で締結した書類は、電子帳簿保存法の電子取引データ保存の要件を満たす形で保存する必要があります。具体的には、タイムスタンプの付与、検索機能の確保、訂正・削除の履歴管理などが求められます。
多くの電子契約サービスはこれらの要件に対応していますが、導入前に確認しておきましょう。国税庁が公開している「電子帳簿保存法一問一答」も参考になります。
税理士の顧問契約を電子化する具体的な手順
実際に電子契約に切り替える場合の手順を、時系列で整理します。
- 税理士への相談:電子契約への切り替えを検討している旨を伝える。相手方の意向を確認します。
- 電子契約サービスの選定:前述の7つのチェックポイントをもとに、自社に合ったサービスを選びます。無料トライアルがあれば活用しましょう。
- 契約書の準備:既存の顧問契約書の内容をPDF化します。変更が必要な場合は、事前に税理士と協議のうえ修正を加えます。
- テスト送信:いきなり本番で使う前に、社内でテスト送信を行い、操作感を確認します。署名画面の見え方や完了通知の内容もチェックしましょう。
- 本番送信と署名:契約書PDFをアップロードし、税理士のメールアドレス宛に送信します。税理士側はメール内のリンクから内容を確認し、署名操作を行います。
- 完了確認と保管:双方の署名が完了すると、署名履歴が付与された完了PDFが生成されます。双方に完了通知メールが届き、クラウド上に自動保管されます。
この一連の流れは、慣れれば30分もかかりません。紙の場合の往復郵送を考えると、大幅な時間短縮になります。
また、一度この仕組みを整えれば、税理士との契約だけでなく、社労士や弁護士との顧問契約、取引先との業務委託契約など、他の契約にも同じ方法を展開できます。契約業務全体の効率化につながる第一歩と考えると、投資対効果は高いといえるでしょう。
まとめ——判断の軸は「手間」と「信頼性」のバランス
税理士との顧問契約を電子化するかどうかの判断は、最終的に「手間の削減」と「契約の信頼性」のバランスで決まります。
電子契約に切り替えることで得られる主なメリットを振り返ります。
- 締結スピードの向上(数日→当日)
- 印紙代・郵送費の削減
- 契約書の検索・管理の効率化
- 証跡の自動記録による信頼性の向上
- 場所を選ばない契約締結
一方、注意すべき点もあります。
- 税理士側の同意と理解が前提
- 電子帳簿保存法の保存要件への対応
- サービス選定にあたっての比較検討
大切なのは、自社の状況に合ったペースで進めることです。すぐに全面移行する必要はありません。次回の契約更新タイミングで、まず税理士との顧問契約1件を電子化してみる——そこから始めるのが現実的なアプローチです。
電子契約は特別な技術ではなく、メールの送受信ができれば利用可能な仕組みです。経営者自身が「契約のやり方」を見直すことで、日々の業務を少しずつ効率化できるかもしれません。

